2025年度大学院修了研究/学部卒業研究・制作|優秀賞受賞者インタビュー
2025年度 大学院修了研究および学部卒業研究・制作において優秀賞を受賞した作品を紹介します。
大学院|論文
岡本太郎の作品表現にみる思想的・社会的背景の一考察
–「夜の会」から《明日の神話》に至る芸術・政治・労働の観点から–
石原 史奈 ISHIHARA Fumina
2025年度修了
本研究は、芸術家・岡本太郎(1911-1996)を対象とする。岡本に関する研究は、これまで美術史にとどまらず、哲学や思想史など多様な分野から蓄積されてきた。しかし、その多くは岡本自身や周辺人物の言説に依拠した分析が中心であり、作品そのものに焦点が当てられた実証的な研究は十分に検討されてきたとは言い難い。
以上の課題を踏まえ、本研究では岡本の絵画の制作過程に描かれたデッサンに着目し、その表現の傾向を明らかにすることを目的とする。分析の対象となる作品は、《青空》(1954年)、《燃える人》(1955年)、《瞬間》(1955年)、《死の灰》(1956年)、《若い闘争》(1962年)の5作品であり、政治的・社会的な動向が反映されていると同時に、制作過程におけるデッサン資料が現存するという点で共通している。
これらの表象分析の結果、5点の作品群には3つの共通した表現上の傾向が確認された。そしてこうした傾向を、岡本が同時期に提唱した芸術理念「対極主義」および「芸術の大衆化・社会化」との関連性から考察した結果、そこにはプロパガンダ的な側面と接続しうる要素が認められたものの、ジークムント・フロイトの理論的な基盤と、パブロ・ピカソの《ゲルニカ》の表現手法からの影響を受けたことで、芸術的創造性と社会的主題性の双方を両立させる構造が形成されていると結論付けられた。
ミュージアムグッズにおける教育的・経済的価値の両立
—日本全国調査と中国事例の比較を通して—
デン カウ TIAN Heyu
2025年度修了
本研究は、ミュージアムグッズ教育性と経済性の両立が可能かどうかを検証し、それらを活用したミュージアムグッズを活用した博物館教育と運営の新たな方向性を提案した。
ミュージアムグッズが博物館の教育的機能に果たす役割とその重要性を明確にすると共に、博物館の経済的持続可能性に与える影響の分析、教育的価値を重視しつつ、ミュージアムグッズが経済的価値を最大化するための条件と実現可能性を探りたいものである。
ミュージアムグッズは博物館から生み出す産物として、博物館活動の目的である教育的要素を備えることが求められ、博物館の経済獲得に対し、ミュージアムグッズは直接な販売収益を提供するのみならず、博物館持続可能な経済的潜在力の創出など経済的役割にも果たす。しかし現段階では、教育機能と経済機能のいずれかに偏りが生じやすく、両者のバランスが十分に取れているとは言えない。
本研究の特徴は、日本全国の博物館を対象とした大規模なアンケート調査と、中国におけるミュージアムグッズ業界の資料調査の比較分析にある。日本の博物館から得られた広範なデータは、ミュージアムグッズの企画・販売体制、教育との連動度、経営上の位置づけなど、現状の課題と可能性を多角的に示した。
最終に、ミュージアムグッズ教育的価値と経済的役割をパランスよく発揮するための具体的な方策も提案した。
学部|作品表現
RISO NOW
—リソグラフカルチャーを伝えるフリーペーパー—
天野 陽日 AMANO Haruka
古賀ゼミ
2025年度卒業
リソグラフを取り巻く人々や社会の動向をリサーチし、その周囲に立ち上がりつつあるカルチャーをアーカイブし、発信していくメディアとしてのフリーペーパーを制作した。リアルタイムに育まれているリソグラフカルチャーを記録していくとともに、リソグラフに携わる人々の情報収集やコミュニティ形成に寄与する、これまでにないメディアの創出を目的としている。リソグラフに興味をもつ人々に加え、アート、印刷、出版、アートコミュニティに関心をもつ層もターゲットとした。リソグラフに関する専門書やカラーチャートは既に存在するものの、本研究のようにリソグラフを取り巻く文化全体を継続的かつ幅広くアーカイブ・発信するメディアは未だ存在していない。そうした背景から、新たなメディアの必要性を感じ、本制作に至った。リソグラフカルチャーを多角的に捉えるため、3つのテーマを設定し、それぞれを1号とする全3号のフリーペーパーを制作した。日本国内では東京から富山、国外ではアメリカやイギリスなど、地域や国を越えてリソグラフスタジオやアーティストへのインタビューを行い、企画・取材・編集・デザイン・印刷・製本までを一貫して手がけた。世界中での流通を視野に入れ、日本語と英語によるバイリンガル表記を採用するとともに、リソグラフならではの質感や風合いを活かした誌面デザインを意識するなど、フリーペーパーそのもののクオリティにも重点を置いて制作した。
ゲーミフィケーションを活用した美術分野における自発的な「気づき」を誘発するための作品制作
中嶋 汐彩 NAKAJIMA Sea
杉浦ゼミ
2025年度卒業
「謎を解いて、どうするんですか」
私が研究概要を初めて説明した際に同席していた市の職員の方の言葉です。その時は明確な回答ができませんでしたが、研究を経て、この作品が私の答えとなりました。
謎を解くには「気づき」が必要です。そして「気づき」はあなたが今まで学んだことから生まれます。「学び」と聞くと机に向かって知識を暗記する勉強のイメージが強いですが、それだけではなく、あなたが見たもの、聞いたこと、知っていること、選んだこと、体験したことも学びであり、それこそが「気づき」の種となっています。
本研究では、鑑賞者の「気づき」を自発的に引き出す代替現実ゲーム(ARG)を制作しました。さらにゲームの要素をゲーム以外の分野に活用する「ゲーミフィケーション」を利用し、美術教育と融合することで主体的に美術を学ぶことを目的としています。
美術作品の非言語性は鑑賞者にとって無限の「気づき」を秘めています。形、色、素材、構図などの造形的な要素および音、光、雰囲気などの感覚的な要素を、どのように捉えるかは鑑賞者の自由です。
しかし、デンマークの哲学者キルケゴールは「不安は自由のめまいである」という言葉を残しています。自由すぎるが故にどうしたら良いかわからない。美術が「難しい」とされる所以の一つはここにあると考えます。このイメージをゲーミフィケーションの導入によって乗り越える試みが本作品です。


